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苦悩の果てに

ある日、懇意にして頂いているオリエンタル自動車のS氏より一本の電話が入った。

「おーじさん、Aeroの売り物があります。今度見に来ませんか。」
「へぇ〜。どんなあんばいですか。」
「当社のお客様からの委託物件です。」
「・・・・」
「自社で整備していた車両ですし、状態は悪くありません。色は赤。」
「・・・・」
「そうそう、オートマじゃなくってマニュアルなんですよ。」
「へぇ〜(汗)。じゃあ今度行きますね。」

とこんな会話をして、次だったかその次だったかの週末にすっかりピクニック気分で車を見に行った。到着すると、元のオーナー氏より売却を委託されたという1995年式の9000Aeroはピットの中に鎮座しており、とりあえず車両の隅々までじっくりと観察してみた。ぱっと見はボディカラーのせいもあって派手な印象だが、真近で見ると所々にある塗装のハゲや擦り傷などで、あまり綺麗じゃないな‥とその時は正直言ってそう感じた。昔から、赤のAeroなんていったらそりゃもう9000乗りの憧れの一台に間違いないでしょ!!なんて思っていたのだが、非常に冷静にその憧れの一台に向き合っている自分が、そこにいた。なぜこうも冷静なんだろうねえと、自問自答を結構長い時間していたのだが、答えは見つからず‥

aero in pit

そうこうしている内に、試乗に出ましょうというので同乗させてもらい、いつもの試乗コースへS氏がAeroを走らせた。マニュアルシフトのSAABに乗ったのはこれが初めてではないが、やはり、同乗しているだけで力強さを感じる。空いた直線での強めの加速では低い速度から背中が張り付くような感じで、これが高速域までずーっと続くんだよなあきっと!と思わずにはいられなかった。乗り心地についても特に問題は無く、S氏の言う通り状態は悪くないということを体感出来た。

すると、S氏が途中で車を端に寄せて止めた。

「おーじさん、ちょっと乗ってみて下さいよ!」

え゛、自慢じゃないがこのワタシ、マニュアル車の運転は教習所以来殆どしてないし、今日はただ見に来ただけだし、遠慮します〜とビビッテいたらまぁいいからいいからと荷車に載せられる牛のように運転席に着席させられ、テストドライブと相成った。
そうして殆ど嫌々ながら?運転してみたのだが案外、体の方が運転を覚えているもので、マニュアルシフト以外は普段乗っている9000と変わらないという事もあり、結構冷静に運転をする事が出来た。とても短い時間の試乗だったが、まず気が付いた事は車体がアクセルの開閉にダイナミックに反応し、それがとても軽いこと。一言でいうと「キビキビ」としている。
トルクコンバータを介さず、機械的にエンジンの出力を車軸に伝えているということもあるし、数値上のトルクが普段乗っている9000より大きいこともある(AT車の場合、30.0kg-m/1800rpm、MT車の場合は34.9kg-m/1800rpm)のだと思うのだが、まるで2サイクルエンジンのバイクを動かしているようなひらひら感が気持ちよかった。
これはいい‥。
現金なもので、オリエンタル自動車に到着する頃には自分の心にはAeroを手に入れたいという感情が芽生えつつあった。
そんな感情はとりあえず隠しておいて、到着してからもなおピットに止めたAeroをじっと眺め続けていたのだが、自分でも本当に不思議な事にこのAeroにはなんかこう、心にガツンと来るものが無い。フックが無い。以前だったら冗談で済んでいた「SAAB9000 2台体制〜」が現実になる事がそうさせるのか、ある意味夢だった一台が目の前に現実としてあるからなのか、なんなんだろうか。
手に入れられるものならそうしたかったが、こういう気持ちの時に重要な決断をすべきではないと自分に言い聞かせようとしていたのだが心の中の自分がうんと言わない。
なぜか?
一番問題だったのは、このAeroがマニュアルミッション車だということ。ふつーのオートマのAeroだったら「あんま綺麗じゃないねぇ、でもこのシートはやっぱいいねぇ、以上!」でサラっと流したのだが、一説によると日本国内で10数台しかデリバリされていないというマニュアルミッション車ということで、ここでさよならしたら恐らく一生出会え無いのではないか。そう思うと簡単に流せるような車ではなかったのだ。
そうやってうんうん悩んでいる内に、その場の空気が既に「おーじはこのAeroを買うのか、買わないのか?」という流れに変わっていたのでこれはイカンとばかりに、その日はとりあえず考える時間を頂いて、うんうん悩みながら帰宅の途についた。

その日の晩は、手持ちの1995年モデルの9000のディーラーカタログを前にして、かみさんと今日見てきたAeroについての話をしていた。勿論、買っちゃっていいものかどうかについての話である。
そう、既に帰宅中に腹は決まっていたのだ。

買う!
欲しいものは買っちゃう!

これである。買うと決心したあとの問題は「CSをどうするか?」であったが、車検を取ったばかりだし、幸いにもランニングコストが非常に低いので車検が切れるまでは手元に置いておくことにした。ラッキーな事に自宅のすぐそばに駐車場の空きも見つけることが出来た。
さて、肝心の話の内容だが、意外にもあっさりと購入の許可が出た。詳しい話は割愛させて頂くが、よくよく聞いてみたら、この日出かける前に「Aeroを見に行ってくる」と言っていた時点で買う気で行ったのだろうと彼女は思っていたらしい。痛い所を突かれた・・・。とにかく、Aeroを買うことが出来たのは彼女の理解によるところが大きいのであった。

その後、オリエンタル自動車の高橋社長に購入の意志を伝えて数日後、名義変更に必要な書類一式と共に過剰なほどの納車整備を施された真っ赤なAeroが引き渡された。
当のAeroは装着しているホイールが残念な事に純正のスーパーエアロではなく17インチの社外品だったので、引渡しの日に乗っていったCSのエアロホイールと入れ替えてもらった。やはり9000にはこのホイールが似合う。元の姿に戻った?Aeroを見ているとちょっぴり自分の車になったような気がした。その他、CSにつけていたドアバイザーをAeroに付け替えたりした後に、classic900カブリオレを入庫しに来ていたご近所のおーたさんを乗っけて帰宅の途についた。
この日は帰宅途中に雨が降り出すという嫌な天候で、関東地方で震度3くらいの地震が発生し、しかも第三京浜の玉川出口を出てから環八の土支田付近まで殆どの区間が渋滞しているという最悪の納車日和だったのだが、おーたさんと車内で世間話やSAAB話を延々としゃべり続けていたおかげで渋滞もさほど気にならず、心配していた渋滞でのクラッチワークもそれほど苦になることなく自宅までたどり着くことが出来た。

こうして我が手元にやってきたAeroだが、その後は岐阜県高山市へのロングツーリングを1本決めたのみで、殆ど動体保存状態となっている。
彼の地への道のりは遠く険しく、超高速あり峠道あり渋滞ありとバラエティに富んだ道程であったが、Aeroの持つポテンシャルを存分に体感する事が出来てとても充実したツーリングであった。が、それっきり殆ど出庫の気配が無く、正に「実用車は9000CS」「趣味車は9000Aero」を地で行っているという感じなのだが、ここで「乗ること」自体に義務感のようなものを生じてしまうと自分にとってはすんごいプレッシャーとなってしまうので、自分のペースで気楽に付き合って行こうと思っている。

aero outside

aero inside

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