自転車よ再び
何年かぶりに、自転車を買った。
思えば小学生の頃に親に買ってもらった、「自転車」という幼少の身にとっては近代兵器を得て、それまでの狭い行動範囲が格段に広くなったことは大変な喜びであった。今日のようにディスカウントショップなどで数千円で完成車が当たり前に売られているのとは違い、それなりの品質の品がそれなりの金額で売られていた頃の話であるから、こういうのも何だが乗り手の方も気合を入れて乗っていたと思っている。
毎週日曜日に時間をかけてリムやスポークの一本一本に至るまでを磨き上げるのは当たり前の事だったし、ブレーキの調整やちょっとしたパーツの取り付けなんかも大抵は自分の手でこなしていた。
どういうきっかけかは思い出せないが、この自転車でウィリーというものを覚え、とにかく乗る度に必ず1回はウィリーをしなければ気が済まないというほどにウィリーばっかりしていたら数年が経ったころ、家に帰ってきた時にフロントブレーキを強めにかけたらフロントフォームの根元が「ボッキリ」と言う感じで折れていまい、そのまま前のめりにでんぐり返って落車してしまった。一瞬何が起こったのかわからなかったのだが落車した原因がわかった時の落ち込み方は凄いものがあった。度重なるウィリーの着地の衝撃でフロントフォークの根元には相当な負荷が掛かっていたのであろう、哀れジャイアンツ号(という自転車だったのだ)はあえなく廃車となってしまった。
その後、中学を経て入学した高校は家から割と遠い所にある学校だったので、必然的に自転車通学をする事になった。
経路的にバスで通学する事も可能だったのだが、1年の時の1学期のある日、雨の日に「濡れるから」という軟弱な理由でバスに乗ったらそのバスが大渋滞に巻き込まれて動かなくなってしまい、あえなく大遅刻をくらってしまって以来朝の路線バスに対しては憎しみさえも抱くようになり、雨の日も雪の日も暑い日も寒い日も風の日も毎日自転車で通学するようになった。
この時乗っていたのは何の変哲も無い普通のママチャリで、出足は悪くないがシングルフリーの為高速域を持続しようとするとクランクを回す足の休まる暇がないという代物だった。3年間酷使したせいかどうか、ペダルを1回折り、漕ぎ出しでチェーンをぶち切ったり、ブレーキワイヤが切れたりというトラブルはあったものの比較的乗りやすい良い自転車だった。
通学のルートには開かずの踏み切り・路線バスという強敵が毎朝待ち構えており、ほんの僅かな時間だけ開く踏み切りをじっと待ち続ける他の通学レーサーの大群の中で如何に良いポジションをゲットしてロケットスタートを決めるか、追いすがってくる路線バスを如何にして振り切るか、といった感じで毎朝死闘を繰り広げていたのはとっても懐かしい思い出だ。
そんなアツイ通学バトルの毎日を幸いな事に無事故で3年間乗り切り、高校を卒業してからは基本的に自転車に乗らないでいい生活になったのだが、そうしたらそうしたで今度は必然ではなく趣味で自転車に乗るようになった。高校を卒業してすぐに会社勤めをしていたので資金はあった。支給されたボーナスから大枚をはたいてPanasonicやPEUGEOTのマウンテンバイクもどきを買って、数10km単位のひとりツーリングを楽しんでいたのもいい思い出だ。
だがそんな日々はそう長く続く事はなく、いつのまにか自転車を手放してしまい、しばらく自転車に乗らない日々、年月が流れて行った。
それがどうだろう、運命というには大袈裟だが再び自転車に真剣に向き合う日々を過ごさなければならなくなった。
子供が産まれて、我が所帯は共働きなので昼間は子供を近所の保育ママさんに預けなければならない。子供の送り迎えは比較的時間を自由に使える自分が担当する事になったのだが、それにしても最寄の駅までの道のりをちんたら歩いていては万が一送り迎えに支障が出ることにもなりかねない(時間厳守!)。ここはひとつ、最寄駅と自宅間の足として自転車が必要なのではないかと考えた訳だ。まさかこの歳になって通勤用に自転車を新調するとは思いもよらなかったが、そうと決まったら話は早い方が良い。ヤフオクで手が届きそうな価格帯の自転車を目を皿のようにして探していたら、なんとも素敵な一台を発見してしまった。
ジャ〜ン。
これが、今の自分の感性に「ビビッ」と来た一台である。
見てお分かりの通り、シンプルな構成である。というか、見る人が見れば、何にもついてない‥と思うかもしれない。
手作りの籐の前カゴとセンタースタンドは同時注文で付けてもらったものだが、つるしの状態だと無い無いづくしでサスペンションなど以ての外、変速ギアも、ヘッドライトもリフレクタもフェンダーもベルも鍵もついていない、まるで洗いざらしの白いシャツのような自転車なのである。
(但し路上を安全に走るため、いわゆる保安部品レベルの部品は別に購入して取り付けてあるが。)
でも私のような使い方であれば、これ位が丁度良いのだ。その辺を走るだけなのにギアをガチャガチャいじるのも面倒臭いし、サスペンションなんて重くなるだけ!構成する部品が少なくなる事で車体は軽くなり耐久性も増すってなもので、足りない部分は体力でカバー出来れば、等と虫のいいことを考えているのだ。こういう考え方って、電子制御が全盛のこのご時世にわざわざ好き好んで古いミニクーパーやケイターハムやアルファロメオなんかを選んじゃう考え方に近いものがあるのではと思うのだが、どうだろうか。

Bianchiエンブレム
これが無いとただのグリーンの自転車だ。

手作りの前カゴ。
籐を素材としており、とてもしっかりした作りとなっている。幅が約35cmで深さも十分。これが無いとコンビニにお買い物にいけないので絶対必要なオプションなのであった。

サドルは茶色の革素材のもの。
テールランプとワイヤーロックの収納部をシートピラーに装着した。
ちなみに、この自転車は大胆な事に通信販売で購入したものである。
購入したのは群馬県高崎市にあるサイクルショップしんせきというお店で、サイトを隅から隅まで時間をかけて読んでいるとお店の方の自転車にかける情熱がこちらにも伝わってくるようで、結果として気分良く自転車を買うことが出来て満足している。最後になるが、同封されていた説明書の中に書いてあったお店からのアツイメッセージを紹介したい。
「物には、気合を入れると魂がこもるんだ」 |
やっぱ、気合だよねえ。



